交差した2本の線
1990年1月の雇用数は、製造業が1780万件、医療が800万件で、比は2.2対1だった。民間と政府を合わせた農業以外の給与雇用全体に占める割合は、製造業が16.3%、医療が7.3%だった。
このとき工場の雇用は、すでにピークをかなり過ぎていた。ピークは1979年6月の1960万件だ。1990年代にはゆっくり減り、2000年以降は減り方がずっと速くなった。2000年12月の1720万件から、2010年2月には1140万件まで落ちた。9年あまりで570万件の雇用が消えたことになる。医療はその間も増え続け、月ごとに減ったのはまれで、減っても小さかった。2本の線は、2008年の金融危機、いわゆるリーマン・ショック後の大不況のさなかに交差した。2008年8月の時点では、まだ工場の方が約1.2万件多かった。2008年9月には医療が8.24万件上回り、それからは毎月医療が上だ。
数字は米労働統計局(BLS)が毎月行う事業所調査から取っている。毎月発表される米雇用統計のもとになっている調査だ。季節調整済みの給与雇用を数え、それぞれの事業所を主な事業で分類する。そのため、製造業の事業所の給与名簿に載っていれば、その人が実際に何の仕事をしていても工場の雇用として数えられる。2つの事業所の給与名簿に載っている人は、それぞれで1件ずつ数えられる。ここで言う「医療」は、民間の病院、診療所などの外来医療、介護施設や入所型のケア施設を指す。政府の雇用は別に数えられ、高齢者や障害のある人へのサービスといった社会扶助は含まれない。

工場の雇用はなぜ減ったのか
簡単な答えはない。BLSの専門誌「マンスリー・レイバー・レビュー」に2021年に載った記事は、2000年代初めの工場の雇用減について「単一の説明はない」と書いている。そのうえで、2000年に中国がアメリカとの恒久的正常貿易関係を認められたことに触れ、この変化が2000年代の減少の「主要な要因としてよく挙げられる」としている。同じ記事によれば、工場の生産量は雇用ほどには減らなかった。労働生産性が上がり、同じ量を作るのに必要な働き手が少なくなったからだ。ただし、この2本の線は、職を失った工場労働者が医療に移ったことを示すものではない。データが数えているのは各業種の雇用であって、業種の間を移る人ではない。
広がっていく差
2010年2月は、1990年から新型コロナ前までで工場の雇用がもっとも少なかった時点だ。そこから2020年初めまでの間に、工場は130万件の雇用を取り戻した。一方、医療はその2倍以上の280万件を増やした。医療の伸びもまったく途切れなかったわけではない。1990年以降の月ごとの変化440回のうち、減ったのは12回で、そのうち2020年より前は3回だけだった。年平均で見ると、1990年から2025年までに医療の雇用が前の年を下回ったのは、2020年だけだ。
そこへ新型コロナが来た。2020年2月から4月までに、医療は160万件、工場は140万件の雇用を失った。失った数は医療の方が多く、差は一時的に縮まった。ただ、減った割合では工場の方がわずかに大きく、工場が10.7%、医療が9.7%だった。どちらも2022年には2020年2月の水準に戻った。工場は6月、医療は10月だ。その後、2本の線はまた離れている。工場の雇用はコロナ前の水準を再び下回り、2026年9月には9.1万件少なかった。一方の医療は、コロナ前の水準を大きく上回っている。

いまの状況
2026年9月、医療の雇用は1860万件で、1990年の2.3倍になった。製造業は1270万件で、1990年より510万件少ない。両者の差590万件は、医療の統計が始まった1990年以降、どの月よりも大きい。農業以外の給与雇用全体に占める割合は、いまや医療が11.7%、製造業が8.0%だ。
直近1年にも同じ形が見える。2026年9月までの12か月に、アメリカの給与雇用は差し引きで49.6万件増えた。そのうち37.2万件、およそ4件に3件を医療だけで占めた。工場の増加は4万件だった。
BLSは直近数か月分の数字を速報値としており、後から改定されることがある。最新の数字はまだ変わりうる。

定義を変えると何が変わるか
「医療」の範囲をどこで区切るかで変わるのは逆転の時期で、方向は変わらない。BLSがより広い「医療・社会扶助」部門としてまとめるように社会扶助まで含めると、製造業を抜いたのはもっと早く、2004年1月だった。2026年9月の雇用数は2400万件だ。
この先はどうなるか
BLSがもっとも大きな伸びを見込んでいるのも医療・社会扶助だ。2026年1月の「マンスリー・レイバー・レビュー」の記事がまとめた2024年から2034年までの予測では、医療・社会扶助は全部門の中でもっとも速く伸び、増える雇用の数も最大になる。一方、製造業の雇用はほぼ横ばいにとどまる。BLSは主な理由のひとつとして、65歳以上のアメリカ人が増えていることを挙げている。高齢者ほど健康上の問題を抱えやすいからだ。慢性疾患の負担が増していることも理由に挙げている。これらは予測であって実測ではない。対象も、先に見た医療だけの線ではなく、もっと広い部門だ。業種のまとめ方も少し違い、たとえば予測の政府部門には州や地方政府の病院が含まれていない。
- [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Manufacturing (MANEMP), via FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis]
- [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Health Care (CES6562000101), via FRED]
- [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Health Care and Social Assistance (CES6562000001), via FRED]
- [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Total Nonfarm (PAYEMS), via FRED]
- [BLS, Employment Situation, Table B-1: Employees on nonfarm payrolls by industry sector]
- [BLS Handbook of Methods, Current Employment Statistics: Concepts]
- [NBER, US Business Cycle Expansions and Contractions]
- [BLS, Industries at a Glance: Health Care and Social Assistance, NAICS 62]








![出典 8 : fred.stlouisfed.org · [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Manufacturing (MANEMP), via FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis], fred.stlouisfed.org · [U.S. Bureau of Labor Statistics, All Employees, Health Care (CES6562000101), via FRED], fred.stlouisfed.org · [U.S. Bureau of Lab](https://media.cdn.polora.ai/picks/2026/10/pickrun_c61135d0de9c439d/Blr3vsf-Jb0OlW_n-slide-08.jpg)
