市場の両端にある二つの金利
ここで言うFRB(米連邦準備制度)の金利とは、実効フェデラルファンド金利(FF金利)のことです。銀行どうしが一晩だけお金を貸し借りするときの金利です。FRBでは、政策を決める委員会が定例会合でこの金利の誘導目標を幅で定め、実際の金利がその幅に収まるよう調整しています。10年債利回りは、満期までの期間を10年にそろえた米国債の市場利回りを日ごとに示したものです。米国債の利回り曲線から読み取られ、FRBが主要金利をまとめて公表する「H.15」という統計に載っています。セントルイス連銀はFF金利の解説で、住宅ローン金利のような長めの金利にFF金利が及ぼす影響は間接的なものにとどまる、としています。2022年と2023年には、二つの金利はそろって上がりました。ところがFRBが最初に利下げしてからは、逆の方向に動いています。
2022年の初め、FF金利は0.08%、10年債利回りは1.63%でした。2022年3月からFRBは急ピッチで利上げを進め、声明ではその理由としてインフレの高止まりを挙げました。2023年7月にはFF金利は5.33%に達します。10年債利回りもこれに合わせて上がり、2023年10月に4.98%で天井をつけました。その後FRBは1年以上金利を据え置き、その間に10年債利回りは下がっていきました。
利下げと、上がった利回り
2024年9月半ば、最初の利下げが発表される前日の時点で、FF金利は5.33%、10年債利回りは3.65%でした。FRBはこのとき誘導目標を4.75〜5.00%へ引き下げました。インフレが目標に向かって持続的に進んでいるという確信が強まった、というのがその理由です。
ところが10年債利回りは逆に動き、2025年1月半ばには4.79%まで上がりました。FRBはその後も利下げを続け、2025年の年末までに6回、合計1.75ポイント引き下げて、誘導目標は3.50〜3.75%になりました。それでも、最初の利下げから最新データのある2026年10月下旬まで、10年債利回りが3.65%以下になった日は一日もありません。この間の日次の最低値は3.70%で、それも最初の利下げ当日の数字です。
2026年 : 原油ショック、利上げ、そして2002年以来の高水準
10年債利回りは2026年2月下旬には3.97%まで戻していました。2月末に中東で軍事行動が起き、続いてホルムズ海峡が、米エネルギー情報局(EIA)の言う「事実上の閉鎖」状態になりました。ほとんどの船舶が海峡を通らなくなり、原油と燃料の価格が跳ね上がりました。その後の数か月、10年債利回りは途中で下げる場面を挟みながら上昇しました。これらの出来事と利回りの上昇は同じ時期に起きています。ただし、一方が他方を引き起こしたことを示すものは、金利データにも、この記事が拠った資料にもありません。
2026年9月半ば、FRBは誘導目標を3.75〜4.00%へ引き上げました。2023年以来の利上げです。声明は「インフレは高止まりしている」と述べ、先行きの不確実性も「一部には地政学的な動きのために、高い状態が続いている」としました。10月初め、10年債利回りは5.31%に達し、日次で2002年以来の高さとなりました。
10月下旬には10年債利回りはこのピークから下がり、FF金利は3.88%でした。最初の利下げ前日と比べると、FF金利は1.45ポイント下がり、10年債利回りは1.35ポイント上がっています。この最新日には、10年債利回りがFF金利を1.12ポイント上回っていました。利下げ前は、FF金利のほうが高かったのです。

FRBのスタッフモデルは、この上昇をどう分けるか
10年債の利回りは二つの部分に分けて考えることができます。ひとつは、今後10年間に平均して見込まれる短期金利です。もうひとつはタームプレミアム(期間プレミアム)で、利回りからその見込まれる平均を差し引いた残りの部分です。どちらも直接は観測できません。FRB理事会は、エコノミストのドン・キムとジョナサン・ライトが作ったスタッフモデルで両方を推計して公表しており、これは研究成果であって公式統計ではないと断っています。このモデルを紹介するページによれば、タームプレミアムは、金利が変動するリスクを引き受ける見返りの部分と、「コンベクシティ・プレミアム」と呼ばれる技術的な効果を合わせたもので、プラスにもマイナスにもなりえます。
このモデルが扱うのは、モデル自身が推計した10年物ゼロクーポン債(利払いのない債券)の利回りで、上で見てきた市場利回りとは別の指標です。最初の利下げ前日、モデルの利回りは3.73%で、市場利回りは3.65%でした。モデルのデータは2026年10月下旬、市場データの最終日より1営業日前までです。その日までに、モデルの利回りは1.27ポイント上がりました。モデルはそのうち0.88ポイントをタームプレミアムの上昇とし、タームプレミアムは0.06%から0.94%になりました。残る0.39ポイントは見込まれる平均短期金利の上昇で、3.67%から4.06%になっています。
つまりこのモデルでは、上昇の大半は推計されたタームプレミアムに現れ、推計された短期金利の道筋に現れた分はそれより小さいということです。どちらの部分も、誰も直接は観測できないものの推計値であり、別のモデルなら利回りの分け方も変わります。また、このモデルはプレミアムがなぜ上がったのかまでは語りません。

ここからわかること、わからないこと
これは出来事の順序であって、因果の証明ではありません。二つの金利はFRBのH.15に載る日次の数字です。誘導目標とモデルの推計値は、FRB理事会の別の系列です。10年債利回りは米財務省が日々公表する利回り曲線のデータで、FF金利はニューヨーク連銀の公表値で照合しました。どこを起点にするかで数字は変わります。最初の利下げ当日の10年債利回りは3.70%だったので、その日から測れば上昇幅は少し小さくなります。「2002年以来の高さ」は日次の水準どうしの比較で、これより前に5.31%以上だった最後の日が2002年にある、という意味です。どちらの金利がこの先どこへ向かうかについて、ここから言えることは何もありません。
- Federal Reserve Board via FRED, Federal Funds Effective Rate (DFF)]
- Federal Reserve Board via FRED, Market Yield on U.S. Treasury Securities at 10-Year Constant Maturity (DGS10)]
- Federal Reserve Board via FRED, Federal Funds Target Range, Upper Limit (DFEDTARU)]
- Federal Reserve Board via FRED, Federal Funds Target Range, Lower Limit (DFEDTARL)]
- Federal Reserve Board via FRED, Fitted Yield on a 10 Year Zero Coupon Bond (THREEFY10)]
- Federal Reserve Board via FRED, Term Premium on a 10 Year Zero Coupon Bond (THREEFYTP10)]
- Federal Reserve Board, Three-Factor Nominal Term Structure Model (Kim-Wright)]
- Federal Reserve Board, Kim-Wright model data file]








![出典 8 : fred.stlouisfed.org · Federal Reserve Board via FRED, Federal Funds Effective Rate (DFF)], fred.stlouisfed.org · Federal Reserve Board via FRED, Market Yield on U.S. Treasury Securities at 10-Year Constant Maturity (DGS10)], fred.stlouisfed.org · Federal Reserve Board via FRED, Federal Funds](https://media.cdn.polora.ai/picks/2026/10/pickrun_ac94cb7acb3647a6/KM5VRltXuoExXEQl-slide-08--frb-10.jpg)
