従業員40人の会社で、財務マネージャーがExcelを使って予算と資金繰りのモデルを作っています。四半期ごとに、取締役会が目を通す財務報告一式、いわゆる取締役会資料を提出します。この人がAIに手伝ってほしい仕事はふたつあります。ひとつは新しいモデルの作成です。もうひとつのほうがより重要で、既存のブックを監査すること、つまり壊れた参照や表に出ない誤りを探すことです。壊れた参照とは、移動や削除されたセルを指したままの数式のことです。表に出ない誤りとは、いかにもありそうな数字を返すのに、その数字が間違っている数式を指します。候補に挙がるAIツールは三つあり、開発元はそれぞれ別の会社です。AnthropicのClaude for Excelはアドイン、つまりExcelの中で動く小さなプログラムで、Claudeの有料プランに含まれています。MicrosoftのMicrosoft 365 CopilotもExcelの中で動きます。GoogleのGeminiは、Googleのオンライン表計算ソフトであるGoogleスプレッドシートの中で動きます。この会社はMicrosoft 365、つまりExcel、Word、OutlookなどのオフィスアプリをまとめたMicrosoftのサブスクリプションで業務を回していますが、数人の同僚はGoogleスプレッドシートで作業しています。
Poloraはこの問いを、Anthropic、OpenAI、Googleが開発したAIモデルに投げかけました。専門家役の三つのモデルがそれぞれ推奨を示し、リサーチャー役のモデルが価格や主張を公開情報と照らし合わせ、司会役のモデルが最終的な回答をまとめました。以下はその比較の記録です。モデルたちの数字が間違っていた箇所や、公開されている証拠では判断がつかない箇所も含めて紹介します。
AIモデルたちの結論は分担制 : 作成はCopilot、監査はClaude for Excel
専門家役の三つのAIモデルは、同じ分担にたどり着きました。OpenAIのモデルであるエンタープライズ・エコシステム・アナリストは、作成はCopilotに任せるべきだと主張しました。理由は、Copilotのほうが優れた財務ロジックを考え出すからではありません。財務モデルがすでに置かれている環境、つまりアクセス権限や共有ファイル、取締役会資料の作成手順の中でそのまま動くからだ、というものです。問いではCopilotの「Agent Mode」について尋ねていましたが、実際の画面ではその名前で表示されないかもしれません。アナリストによれば、Microsoftは現在これを「Edit with Copilot」と呼んでおり、Microsoftの最新のドキュメントでは、Excelでの作業方法としてEdit、Plan、Chatの三つが説明されています。司会役のモデルは、名称に頼るのではなく、自社の環境で実際にどの名前や機能が表示されるかを確認するよう勧めました。アナリストは、AIに直接編集を許す前にまずPlanを使うよう勧めています。Anthropicのモデルであるスプレッドシート設計スペシャリストは、セルに手を加える前に計画を立てるこの習慣こそ、ツールに新しいモデルを作らせるときに最も重要な安全策だと述べました。
監査については、Googleのモデルであるリスク・監査ストラテジストも含め、三つのモデルすべてがClaude for Excelを選びました。決め手になったのは、Claudeが具体的なセルを示すことです。Anthropicによれば、このアドインはブックの内容を説明し、変更を追跡し、言及したセルまで移動させてくれます。スプレッドシート設計スペシャリストは、この論点を率直に言い表しました。セル参照までたどれない監査結果は監査結果ではなく、ただのうわさだ、というのです。
司会役のモデルは、読者が最も押さえておくべき線を引きました。これは作業の進め方についての推奨であり、ClaudeがCopilotより多くの隠れた誤りを見つけるという証拠ではありません。リサーチャー役のモデルはさらに、三つのモデルが重なり合う公開情報をもとに推論している以上、意見の一致は注目に値するものの証明にはならない、同じ盲点を共有している可能性があるからだ、と付け加えました。
取締役会が頼るExcelモデルからGeminiを外した、AIモデルたちの理由
Geminiの性能が低いと言ったAIモデルはひとつもありませんでした。反対の理由は構造にありました。Googleは、GeminiはGoogleスプレッドシート本来の形式で最もよく機能するとしており、その機能を使うにはExcelファイルをスプレッドシート形式で保存するよう求めています。シート同士のリンクが張りめぐらされた複数シートのブックの場合、この変換によって会社の財務数値の「もうひとつの版」が生まれてしまいます。スプレッドシート設計スペシャリストは、変換そのものが、ツールに見つけてほしいはずの種類の誤りを生みかねないと警告しました。壊れた参照、以前のようにセル範囲全体に行き渡らなくなった数式、丸め方の変化などです。
エンタープライズ・エコシステム・アナリストは、GeminiのAI関数の制約も指摘しました。これはセルに =AI() と入力してGeminiに質問し、その答えをセルに返してもらう関数です。返すのはテキストだけで、ブック全体を見ることはできず、ほかの数式の中に組み込むこともできません。リスク・監査ストラテジストは、Googleが2026年六月に特定の誤り修正機能を公開したと主張しましたが、リサーチャー役のモデルはその機能も日付も確認できませんでした。モデルたちに共通する助言は次のようなものでした。すでにGoogleスプレッドシートで仕事をしていて、自分のプランにGeminiが含まれている同僚にとっては理にかなった選択だが、取締役会が頼るモデルの監査役には向かない。
40人の会社でCopilot、Claude for Excel、Geminiを使うといくらかかるか
専門家役のAIモデルのうちふたつが価格を間違え、リサーチャー役のモデルがそれを訂正しました。この規模の会社の場合、Microsoft 365 Copilot Businessの定価は、年払いで1ユーザーあたり月21ドル、キャンペーン価格なら18ドル、月払いなら25.20ドルで、対象はユーザー数300人までの組織です。あるモデルが挙げた30ドルという数字は大企業向けの価格です。Copilotは単体では販売されていません。対象となるMicrosoft 365の基本プラン、たとえば1ユーザーあたり月14ドルのMicrosoft 365 Business Standardが必要なので、追加料金だけを見ると実際の費用を低く見積もることになります。キャンペーンの終了時期については、公開情報の間で食い違いがあります。Microsoft自身のページでは2026年十二月三十一日までとされ、18ドルの価格は年間契約の初年度に限られています。一方、九月三十日までとする情報源もあり、その日付はもう数日後に迫っています。リサーチャーは、Microsoft 365管理センター、つまり社内のIT管理者がアカウントやライセンスを管理する画面で見積もりを確認するよう勧めました。
合計すると、エンタープライズ・エコシステム・アナリストの計算では、40人全員にCopilotを入れた場合、年払いの18ドルで月およそ720ドル、月払いなら月1,008ドルになり、しかもこれは基本プランを含まない金額です。アナリストは代わりに、実際に数字を作って説明する人たちのために、五席から八席、つまり個人ユーザー向けライセンスを五つから八つ用意するところから始めるよう提案しました。
Claude for Excelに個別の料金はなく、Claudeの有料プランに含まれています。有料プランには月20ドルのPro、月100ドルからのMax、そしてTeamがあります。司会役のモデルは現在のTeamの料金表を、年払いで1席あたり月20ドル、月払いで25ドル、最低二席からと読み取りました。これは、25ドルと30ドルで最低五席からとしたアナリストの数字より低いものです。ExcelでClaudeを使うにはMicrosoft 365の職場アカウントが必要ですが、Copilotのライセンスは必要ありません。
GoogleスプレッドシートのGeminiは、年払いで1ユーザーあたり月14ドルのGoogle Workspace Business Standardから利用できます。AIがプランに組み込まれているため、使うかどうかにかかわらず、プランの利用者全員がその料金を払うことになります。スプレッドシート設計スペシャリストはCopilotについても注意を付け加えました。席ごとの料金に加えて、AIが特定の作業を実行するたびに利用料がかかる場合があり、そうした料金が同時にいくつも発生しうるため、初日から支出の上限を設定するよう勧めています。
月20ドルのClaudeプランは、大きなブックの監査の途中で上限に達するおそれ
比較に参加したAIモデルのひとつ、スプレッドシート設計スペシャリストは、利用上限こそ実務上いちばん強く伝えたい注意点だと述べました。書式の調整を数回と誤りのチェックを一度しただけで、数分のうちにProプランの上限に達し、作業が途中で止まってしまったという利用者の報告があります。このアドインは、チャットよりもはるかに速く利用枠を消費します。依頼のたびにブックを読み込み、内容を推論し、いくつもの操作を別々に実行するからです。リンクだらけの大きなブックの監査は、このツールに頼める中でも最も負荷の高い作業のひとつです。
リサーチャー役のモデルが見つけた別のレビューも同じ見方です。Proは日常的な分析作業には向いており、月100ドルのMaxプランなら重い財務モデリングにもずっと余裕があります。スペシャリストは、これを選択の問題として示しました。取締役会資料を一度にまとめて監査したいならMaxのような上位プランに払う、そうでなければ一回の作業でシート一枚ずつ監査すると割り切る。いずれにしても、何も考えずに20ドルのプランを買うべきではない、ということです。スペシャリストは、こうした不満が2026年三月時点のもので、その後上限が変わっている可能性もあるため、実際に使ってみる最初の一週間が試金石になると述べています。
ExcelのClaudeとCopilotをめぐって、公開レビューの評価が分かれる点
問いは意見の食い違いを決着させるのではなく示すよう求めており、AIモデルたちはいくつかの食い違いを見つけました。あるレビューは、両方を試した利用者の多くがCopilotよりClaudeを好むとしていますが、これは利用者自身の申告による意見です。しかも同じレビューは、2026年三月時点でインストールや安定性に問題があると警告していました。あるコンサルタントは、2026年八月に確認された評価で、分析やモデル作成、前任者から引き継いだブックの読み解きにはClaudeのほうが優れ、Excelのメニューバーから手早く済ませる作業ではCopilotに分があるとしています。これは経験を積んだひとりの人物の見解です。
Microsoftは、プレビュー期間、つまり正式リリース前の試用期間中に、Excelの利用度、継続率、満足度が向上したと報告しました。スプレッドシート設計スペシャリストは、これらはどれだけ使われたかを測るもので、数式が正しかったかどうかを測るものではないと指摘しました。Anthropicは金融分野のベンチマーク、つまりAIモデルを比較するための標準テストでのClaudeの結果を挙げており、Microsoftも安定性の向上を報告しています。しかしエンタープライズ・エコシステム・アナリストによれば、どちらの主張も、自社の非表示シートや他ファイルへのリンク、社内の慣習をそれぞれのツールがどう扱うかを示すものではありません。リサーチャー役のモデルの結論は明快でした。財務モデルの監査についてこの三つのツールを比べた、第三者による検証済みのベンチマークは見つからなかった。どれかが測定可能なほど優れているという主張は、証拠の範囲を超えている、というものです。
同じExcelモデルにAIツールをふたつ使う価値はあるか、AIモデルたちの答えは「ある」
Anthropicのモデルであるスプレッドシート設計スペシャリストは、職務の分離という考え方を根拠にしました。帳簿に取引を記録する人と、それを承認する人を分けるという会計のルールです。自分の作業を自分で点検するモデルは、自分の盲点をそのまま抱えています。Copilotが数式を書く段階で前提条件のシートを読み違え、その同じ数式を自分で点検すれば、誤りは両方の段階をすり抜け、むしろ裏付けが取れたように見えてしまいます。別の会社が作り、別の訓練を受けたレビュー役なら、間違え方も違ってきます。スペシャリストの見方では、ふたつのツールの意見が一致しても証拠としては弱く、食い違ったときこそ、人間が見るべきセルがまさにそこにあることを示しています。
司会役のモデルは、これをもう少し絞り込みました。数人の財務担当者に、下書きにはCopilot、レビューにはClaudeを使ってもらい、それぞれがブックの別々のコピーで作業し、承認済みのモデルを両方が同時に編集することは決してない形にする、という提案です。評価の方法として示したのは短い試行運用で、過去に実際にあった誤りと意図的に仕込んだ誤りを基準に採点します。見つけた重大な誤り、誤検知、意図しない変更、そして各指摘が具体的なセルとそのビジネス上の影響を示しているかどうかを見ます。そのうえで、ふたつ目のツールが費用に見合う成果を上げた場合にだけライセンスを追加するよう勧めました。エンタープライズ・エコシステム・アナリストは、どちらのツールにも一度にすべてを直させないよう警告しました。そうすると見た目はきれいでも、ロジックが何十か所も変わってしまったブックができあがるからです。司会役のモデル自身の手順も同じ方向を向いています。変更の提案は一度にひとつずつ、です。
Claude for Excelを導入する前に : IT部門の承認と、AIによる変更の記録が残らないおそれ
組織全体への導入はMicrosoft 365管理センターから行い、IT管理者がアドインを全員、指定したユーザー、またはグループに配布します。AIモデルのひとつであるスプレッドシート設計スペシャリストは、管理者が、会社のデータを扱ってよい外部企業としてAnthropicを承認する必要もあると指摘しました。資金繰りモデルには給与額を推測できる数字が含まれるため、その話し合いはインストールの前に済ませておくべきだとしています。このアドインには最近のバージョンのOfficeアプリが必要で、Office 2016と2019には対応していません。
リサーチャー役のモデルは、ほかのモデルが見落としていた穴を指摘しました。2026年三月のあるレビューによれば、このアドインは当時、監査人が期待するような詳細な記録をまだ残していませんでした。もしそれが今も変わっておらず、外部の会計士や取締役会から「AIがいつ何を変えたのか」と聞かれた場合、手作業でつけた変更記録が唯一の記録になるかもしれません。そのレビューは半年前のものなので、現在の状況を確認するようリサーチャーは述べています。
AIが書いたExcelの数式は、言葉で言い直し、どこを指しているかを見て確かめる
プログラマーではない人が数式を承認するときの手順について、AIモデルたちは全員の意見が一致しました。そして、どの手順もどのAIが書いた数式かには左右されません。作業はコピーの上で行い、変更の提案はひとつずつ受けます。まず、AIには何も編集しないよう頼み、数式の提案、すべての参照についての平易な説明、テストケースの提案を求めます。次に、そのルールを自分の言葉で言い直します。たとえば「期末の現金は、期首の現金に入金を足し、支払いを引いたもの」といった具合です。自分の言い直しとAIの説明が食い違ったら、そこで手を止めます。
続いて、セルをクリックしてF2キーを押し、数式を編集できる状態にします。するとExcelは、数式が使っているセルや範囲をそれぞれ別の色の枠で囲んで表示します。コードを読むのではなく、色付きの枠が正しいシート、正しい期間、すべての行を囲んでいるかを確認すればよいのです。スプレッドシート設計スペシャリストは、これを最も効果の高い確認方法と呼びました。一行足りない範囲やずれた列を数秒で見つけられるからです。「参照元のトレース」と「参照先のトレース」は、そのセルに何が流れ込み、そのセルが何に流れ込んでいるかを矢印で示します。「数式の検証」は計算を一段階ずつ進めて各段階の値を表示するので、どこで数字がおかしくなるかがわかります。
それから、数式を一か月分右に、一行下にコピーして、もう一度確認します。ひとつのセルでは正しく動いても、コピーすると壊れる数式はよくあります。確認するのは、扱いやすい期間の真ん中の月だけではありません。予測の最初の月、年度末、翌会計年度の最初の月、そして最後の月も見ます。
※ 参照元のトレース : Excelの「数式」タブにあるコマンドで、選んだセルから、その数式が使っているセルへ矢印を引いて示します。

AIが書いた数式は、自分で答えを出せる値でテストする
コピー上で入力値を変えて、何が起きるかを見ます。AIモデルたちは三種類のケースを提案しました。暗算で答えが出る単純な例、売上ゼロや予測の最初の月のようなゼロや境界のケース、そして人件費が10%増える、回収が30日遅れるといった負荷をかけたケースです。割引率がゼロなら、割引計算の数式は割引前の金額を返さなければなりません。Googleのモデルであるリスク・監査ストラテジストは、手早くできるテストを付け加えました。極端な値を入れても結果が動かないなら、AIがリンクを張るべき場所に固定の数字を打ち込んでいる可能性が高い、というものです。
次に、別に計算した結果と照らし合わせます。電卓や簡単な計算用シートを使い、別のAIの説明とは比べません。数量かける単価は売上に等しくなるはずです。人数かける1人あたりの月額費用は人件費に、期首の現金に純増減を足したものは、どの期間でも期末の現金に等しくなるはずです。
最後に、#REF!が表示されない誤りを探します。#REF!は、参照が壊れたときにExcelが表示するメッセージです。たとえば、数式の行に直接打ち込まれた数字、SUMで足し合わせる範囲が最終行の手前で止まっている合計、現金の支出の符号の逆転、先月ではなく前年を参照しているリンクなどです。そしてスプレッドシート設計スペシャリストが、AIが作った財務モデルで最も危険だと名指ししたのが、数式をIFERRORで包み、本当は壊れている箇所がきれいなゼロとして表示されるようにしてしまうケースです。スペシャリストは、ブック内のIFERRORをすべて検索し、ひとつひとつについて使う理由を説明できるようにするよう勧めました。
※ IFERROR : 数式がエラーを返す場合に、代わりに指定した値、多くはゼロや空白を表示するExcelの関数です。
取締役会が頼れるのはAIの自信ではなく、検証済みのロジック
AIモデルたちが示した手順の最後の段階は、モデル全体の整合性を確かめることです。各期間の期末の現金が次の期間の期首の現金に引き継がれているか、一致すべき合計が実際に一致しているか、取締役会資料の数字がその元になっている明細表と合っているかを確認します。スプレッドシート設計スペシャリストは、各シートの上部に常設のチェック行を置くことを提案しました。すべてが合っていればゼロを表示し、どこかが壊れれば赤く変わる行です。誰も見ていない次の四半期にも働き続ける仕組みです。AIが何かに触れる前に版を保存し、作業後に出力を比べ、重要な変更はすべて説明できるようにします。変更はひとつずつ簡単な記録に残し、セル、変更前と変更後の数式、理由、実施したテスト、承認者を書いておきます。
残りはスペシャリストのルールに集約されます。どちらのツールも、間違った数式を、正しい数式と同じ流暢で自信に満ちた口調で説明します。だからAIの自信は、まったく証拠にならないのです。司会役のモデルも同じところに行き着きました。AIは下書きを速め、怪しいセルを指し示すことはできる。しかし取締役会が頼るモデルの場合、承認の根拠になるのは、誰かが検証し整合性を確かめたビジネスロジックだ、ということです。スペシャリストが実務上の最初の一歩として挙げたのは、選んだレビュー役のツールに、すでに承認済みで正解がわかっているモデルを監査させてみることでした。何を見つけ、何を見逃し、何をでっち上げるかを確かめるためです。








